MDAホーム 体験イベント 【イベントレポート】介護施設見学会 2011.2.5-2.6

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【イベントレポート】介護施設見学会 2011.2.5-2.6

「超高齢化社会」を迎える日本では、その受け皿を迅速に整備する必要性が高まっています。しかし、「介護」や「有料老人ホーム」という言葉は定着しつつあっても、すべての高齢者がそのサービスを受けられる訳ではありません。また、介護に関する国の制度や民間企業の動きは昨今非常に流動的になっています。
高齢者にとって重要なポイントはADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)の維持と向上です。ADLとは、寝起きや移動、トイレや入浴、食事、着替えといった,日常生活に必要な最低限の動作のことで,高齢化や障害の程度をはかる指標とされます(国立国語研究所HPより)。
種類が多く内容やサービスも本当に千差万別な高齢者施設では、ADLの維持向上のために様々な工夫や取り組みを実践しています。今回は介護付き有料老人ホーム2施設を訪問させていただき、各施設の工夫や取り組みをじかに拝見してきました。
第1回 2011年2月5日(日)未来邸 日本橋
第2回 2011年2月6日(土)ツクイ・サンシャイン成城

参考:MDA2010介護部門 スペシャルコンテンツ 現在の高齢者施設の種類と特徴

第1回 2011.2.5 未来邸日本橋

施設の紹介

介護付き有料老人ホーム「未来邸日本橋
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見学レポート

未来邸日本橋は、隅田川に程近いオフィス街にある介護付き有料老人ホーム。施設に入居される方は、退院後に自宅で介護をすることが難しい場合に、「自宅の別宅」と位置づけて入居を決められるとのこと。運営会社の社長も「自分の家族を住まわせたい施設」を目標にされているとのことでした。

最も重要な特徴は医療体制です。未来邸の関連施設は21あり、24時間看護師が常駐している施設がこの日本橋を含めて9つ、さらにそのうち2つにはクリニックが附設されています。また、全施設に理学療法士(PT:Physical Therapist)、作業療法士(OT:Occupational Therapist)、言語聴覚士(ST:Speech Therapist)が配置され、スタッフ全員が定期的に研修を受け、カンファレンスを実施し事例検証を重ねています。近隣には大小関わらず病院も多いため、現場での判断に応じて、適時医療機関に連携されるそうです。

未来邸はオフィスビルをリノベーション(改築)して作られており、マンションを改築すると廊下が屋外になってしまうため、老人ホームではなく高専賃(高齢者専用賃貸住宅)に向いていますが、オフィスビルの改築の場合、廊下などの共用部分は屋内にできるため、老人ホームに適しているのだそうです。実際、広々とした共用スペースは、各階ごとにソファーやテーブルセットが置かれていました。ただ、元々住む場所ではなかったということもあり、ストレッチャー(対象者が横たわったまま移送する車輪付きベッド)がエレベーターに入らない点が残念です、とのことでした。

現在の入居率は95%で、84〜79歳の方が多く男女比は男:女=1:2(参考:他施設では男:女=3:7)。また、要介護者に対するスタッフ人員は、通常は3人に対しスタッフ1名のところ、未来邸では2.5人に1名と手厚い介護体制が特徴です。
ADL維持向上にももちろん注力し、特におむつはずしに力を入れており、病院から入居された方の7〜8割でおむつはずしが成功しているとのこと。また、浴室とカラオケルームが、重量や防音の問題から地下に配置されており、入浴に関しては、ストレッチャーに乗ったまま浴槽に入る機械浴より、なるべく自然に近い状態で介助をしながらの個別入浴を中心にしています。
同じく地下には理容室や美容ケア(ネイルなど)を受けられる個室など、身だしなみを意識される入居者さんには嬉しい設備もそろっています。さらに、共用スペースには極力手すりをつけないようにし、入居者の方が手すりに頼りすぎることでADLが低下しないような配慮もなされ、極力日常生活に近い空間が保たれていることがよくわかりました。

居住スペースも見学させていただきました。ベッドにはリクライニング機能があり、誤って落ちないよう柵もついています。また、各部屋にトイレがあり、つかまりやすい格子状の手すりが設置されていました。2人で入居できる部屋も用意されており、ご夫婦で入られる方もおられるとのことでした。


座談会レポート

一通り施設内を見学した後は座談会へ。後見人制度など、実際に入居する際に重要となる金銭面での配慮・体制についても説明いただきました。最も話題になったのが、日本橋という都心で老後を過ごすというスタイルについてです。その立地から、入居者はショッピングや観劇で外出したり、ご家族が仕事の合間に顔を出しやすいという地の利が活かされ、地元の方々との交流も多く地域にも溶け込んでいるとのこと。また、ご家族の訪問回数も自然と増えることで、施設スタッフだけではなく、ご家族も一緒に介護にあたることができるようです。
途中から、料理長、看護師、作業療法士の皆さんが座談会に参加され、食事や介護など実際の現場で工夫されていることを具体的に伺うことができました。
食事は料理長が季節感を重視し、施設で全て手作り。また、治療食対応はもちろん、嚥下(えんげ:食べ物を飲み込むこと)が困難な方でも食べやすいよう、やわらか食、刻み食、ミキサー食なども展開されています。

看護師が医療施設と介護施設での違いとして、医師が常駐していない分、看護師が現場で自分自身で判断する必要がある点を挙げられました。
もっとも印象的だったのは、看護師さんから語られたエピソードです。
嚥下に問題がある方が、病院ではIVH(中心静脈栄養法:主に鎖骨下の大静脈に管を挿入し、高カロリー輸液によって栄養補給をすること)を受けていたのですが、説明不足だったこともありご家族は納得しておられなかった様子。歯科関係の仕事に就かれていて、口から食べることの重要性を人一倍痛感されていたため、未来邸入所後は「どうしても口から食べてもらいたい」と熱心に相談をされていました。
施設でも食事やスタッフの対応に工夫をこらし、ご家族と協力をしながら少しずつ経口摂取が増えた結果、最終的にはお粥を口から食べられるようになったとのこと。ご家族の思いを大切にして、自宅の別宅として日常生活に近い状態を維持したい、という介護施設としての信念が強く感じられました。医療と介護それぞれの目線が独立せずコラボレーションできたからこそ、このような良い結果につながったのではないか、これからは介護現場に特化した看護師が求められるのではないか、と最後は全員が同じ意見になりました。

また、理学療法士の方からは、病院では各専門職ごとにユニット化されすぎているけれど、介護施設では職域の垣根が変わり、理学療法士が作業療法士などの役割も必要とされるために様々なスキルが求められるという話がありました。
病院では日常生活とかけはなれた環境であるため、食事から身の回りを整えることまで受動的な状況になってしまい、本当なら使うべき体の機能が衰える可能性が高くなってしまいます。病院でのリハビリと違って、介護施設では普段の生活の中で掃除などの活動を通してリハビリを行っていく。そのときに、入居者の方が「どうしていきたい」かという自己選択・自己決定を、発言そのままではなくその背景などをもしっかり読み取り、介護する側がしっかり認識してぶれないことが重要とのことでした。
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第2回 2月6日(土)ツクイ・サンシャイン成城

施設の紹介

介護付き有料老人ホーム「ツクイ・サンシャイン成城
施設概要 詳細はこちら

見学レポート

世田谷区上祖師谷にある、ツクイサンシャイン成城。1、2階が吹き抜けとなっており採光性に優れとても明るい印象です。この吹き抜けでは、12月にはクリスマスツリーを飾ってみんなで楽しまれるそうです。各居室の広さは約11畳あり、車いすでの生活も可能なフラット設計になっています。また、共有スペースはオゾン消臭装置が設置されており、生活による臭いへの配慮もなされていました。


ゆったり入浴できる一般浴槽は広く、スロープなどの設備もありました。また、あらゆる状態の入所者の方に対応できるよう特殊浴槽装置を用意されてます。
個人浴槽では入浴の前後で体が冷えてしまわないよう、天井に温熱ヒータが設置されるなど、細やかな配慮がされています。

施設内では「東屋」「屋上庭園」「屋上緑化」など、入居者の方が緑を感じながら散歩ができる憩いのスペースが充実しています。晴れた日には屋上庭園からは東京タワーやスカイツリーも見えるそうです。周りに大きな建物がないこともあって空も一望でき、気分転換にとてもぴったりな空間のようです。

24時間介護職員の配置はもちろんのこと、医療機関との緊密な連携がとれているとのこと。医師との連携が難しい高齢者施設が多い中、いつでも駆けつけてくれる医師を確保しており、時には緊急病院まで付き添ってくれ、紹介状などを作成してくれるそうです。健康診断はもちろん、口腔チェックなども定期的に行っているようです。

食事サービスにも力を入れておられます。毎日約10種類のメニューからオーダできるセレクト昼食から、和洋中の料理から好きな物が選べるバイキングスタイルの日曜朝食まで、食べることに楽しさを盛り込んで飽きさせない工夫がなされています。食事は外部の人も利用できるため、週末は家族連れでにぎわうそうです。
調理には「真空低温調理法」が採用されています。これは、下処理した生の食材を調味料と一緒に袋に入れて真空パックし、湯煎またはスチームで低温加熱する料理法。食材の栄養を損ないにくく、活性酵素の発生を抑制できるため、アンチエイジングへの期待が高まりますね。

座談会レポート


この施設はまだできて1年ですが、地元のお祭りに参加するなど地域との交流も活発とのこと。今後は、近くの保育園との交流も考えていかれるそうです。
施設内や家族とのカンファレンスを頻繁に開いて、ケアプランの見直しをしているとのこと。成城の施設では、必要な理学療法士がまだ人員としては少なく、看護師が機能訓練も兼務されているそうです。寝たきりにならないように体位交換をしたり、歯磨きをしながらなど生活の中で自然とリハビリにつながるアプローチをしたり、工夫をこらしておられます。
ナースコールが押せる方はコールがなった時に随時対応されていますが、全介助が必要な方は夜間1時間〜1時間半に一度巡回。尿が出ているかを随時チェックし、腹圧が弱く排尿しづらい方には介助をし、おむつではなくなるべくトイレで用を足してもらえるように配慮しています。

体の状況は常に変化していくため、入居のときは元気に入居された方でも、施設で看取られる方も中にはおられます。実際には、看取ることよりも救急搬送で病院で亡くなられる方が多いようですが、入居時に看取りをどうするかという契約もかわされているとのことでした。
在宅治療も病院への入院も難しいという方の場合、中には延命処置を希望されない人もおられ、その場合は往診の医師を紹介し、万が一の看取り時に必要な情報を得るようにしているそうです。

2回の見学会を終えて(MDA運営事務局より)

未来邸日本橋においては、「高齢者施設では、看護も介護も食事も、すべてにおいて完成形がない」という共通認識のもと、ひとりひとりの事例にあった対応をすべくスタッフ同士の会議や研修を欠かさない姿勢。本当なら自宅が一番だけれど、色々な事情で難しい場合にここを別宅としてほしい。まさにその思いが、入居者が介護施設でなるだけ心地よく過ごせる日々支えているのだと思いました。
ツクイサンシャイン成城でも、最終的には個々の資質にもよるが、介護をする人は優しい気持ちを持った人でなければ心のこもったサービスができない、とスタッフの皆さん。実際、入居者の方もどのスタッフが自分のことを親身に考えてくれているか、敏感に感じとっておられるようです。

今回の訪問で、病院は特殊な環境ではありますが、介護は生活の中でさまざまな支援を行うため、常に「人の一日」「人の一生」を考える分野なのだと再認識しました。でも、医療も本来は人間にとって身近なもの。さらに、介護施設における医療連携が非常に重要なポイントであることが今回よくわかりました。
高齢者においては、何かしら通院や入院の経験があり、医療と介護を行き来している方が非常に多くいらっしゃいます。2つの連携がもっとスムーズになり、生活の中で医療と介護のより良い姿を模索できることが求められています。そのためにも、現実にある問題点を場に出す、今回のような企画が必要なのかもしれませんね。
未来邸日本橋の皆様、ツクイサンシャイン成城の皆様、また、見学会にご参加くださった皆様、どうもありがとうございました。

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