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Medical Design Award2010 「看護現場をデザインで考えるワークショップ」
トークライブ「医療の現場でのデザインが出来ることは何か?」

メディカル・デザイン・アワード2010の応募真っ只中に開催された、トークライブ「医療の現場でのデザインが出来ることは何か?」。
デザイナーの方々に医療の現場のことを知っていただき、いかに現実に近いデザインを仕掛けていただくか。また、医療の現場の方々にはデザイナーがどんな思考をしているのか。今抱えている看護の問題をどんな風に解決できるのか。
有意義なイベントとなった貴重なトークライブ。その一端をご紹介いたします。(2010年2月19日 東京都看護協会会館にて収録)

3人のパネラーご紹介(写真左より)

司会進行・・・阿久津靖子(MDA実行委員会 副委員長)
メディカル・デザイン・アワード実行委員長の立場から・・・飯島ツトム氏

現在イノベーション・デザインのコンセプトについて構想中。イノベーションでこれからの世の中を変えていこうと提唱されています。環境goo大賞の審査員をされていました。今回のアワード実行委員長でもあります。

医療側の立場から・・・高瀬義昌氏

信州大学卒業後、たかせクリニックを開設され、今は在宅医療に24時間奮闘される認知症専門医の第一人者でいらっしゃいます。医療が在宅医療に入っていくときにデザインはどうなるのか?と、メディカルデザインにご興味をもたれています。

デザイナーの立場から・・・浅香崇氏

日本インダストリアルデザイナー協会理事長。ご自身は東京教育大学工芸工業デザイン専攻卒業後、岡村製作所やドイツの工業デザイン事務所で勤務されて、現在はデザインスタジオ トライフォーム代表。医療関係のデザインを多く手がけられ経験豊富。

トークライブ「医療の現場でのデザインが出来ることは何か?」

阿久津 —今医療はいろいろな閉塞感があると言われていますが、どのような点を変えられるとお考えでしょうか。まず飯島さんからお願いいたします。

飯島氏 — 閉塞感というよりも、むしろ一歩進んで、それを突き破る話をみなさんとしたいなと思います。僕は、閉塞感として感じていなくて、制約と思われていることが開発する際の大切な部分、つまり制約条件が開発条件だと考えています。デザインというプロセスやデザイナーとしての仕事の中には、分析したり再統合したりという力がある。デザイナーは日々訓練して医療と結びつくことで、次のテーブルに行けるのではないでしょうか。

阿久津 —実際に医療現場におられる高瀬先生はどうお考えでしょうか?

高瀬氏 — GKデザイングループ代表の榮久庵憲司さんは「幕の内弁当の美学」を提唱している方。ヤマハのバイクのデザイン、キッコーマンの醤油さし、成田エクスプレスを作られた方なんですね。全然ジャンルの違うこれらを同じ人がつくっていて、しかも「幕の内弁当」がデザインの基だと聞いて、デザインの力ってすごいなと。デザインは単なる形状ではなく、リフレーミング、枠組みを変える力があるものだと思いましたね。
私が在宅医療を行う場合、施設に往診に行くこともあります。訪ねる度に何か足りないと思うのですが、それは、施設を設計する段階でコンセプトデザインがなされていないからなんです。デザインの戦略をきちっと考えて、医療と看護、施設の経営が折り合う落としどころを、僕らが提言していきたいですね。ハードウエア、ソフトウエア、ヒューマンウエアがきちんと機能している病院という空間を訪ねたら、きっと気分が良くなる。そんな空間を生み出すことは、デザインの力でしかできないと思います。

阿久津 —なるほど。高瀬先生は最初にお会いした時から、医療者でここまでデザインのことを語る方がいるんだということにびっくりしました。それから、私はこれまでの経験から外にデザインを伝えるのってなんて難しいんだろうって思ってきました。浅香さんはいかがでしょうか?

浅香氏 — 私自身は最初から医療関係のデザインをやっていたのではなく、たまたまCTスキャンのデザインの仕事を受けたことがきっかけです。医療機器のデザインは、日常使っているような体温計や血圧計から、先端医療機器まで非常に幅が広い。自分が健康だったので、入院経験もなく病院そのものを知らない。だから、CTのデザインをする時に戸惑いましたね。まずは、病院での経験が必要だと思いました。
デザインそのものは計画という内容も含んでいますし、欧米では、設計そのものをデザインと呼んでいます。その中でも、主に形態、色彩、意匠を高めるということを中心にやってきました。コンセプト、計画だけでは僕はデザインとは思っていない。それらを可視化する、目に見えるものにするのがデザイナーです。

阿久津 —多くのデザイナーの方が医療に関わりたいけれどやはり難しい、と迷われることも多いかと思います。「医療デザイン」ってどう考えたらよいのでしょうか。

浅香氏 — バイタルモニターを開発する際に、3つの病院を見学させていただきました。そのリサーチの結果、医療デザインの意図をこう考えました。ひとつの大きな柱を医療看護の向上、次に患者のQOL(クオリティーオブライフ、生活の質)の向上、最後にデザインの果たす役割として「空間」「機器道具」「サービスとデザイン」と考えました。これらが重なってはじめて、病院で適切な治療を受けることが出来るのではないか。病院だけでなく在宅での医療に置き換えて考えても、同じような意図で医療とデザインのあるべき方向を見いだせるのでは。

高瀬氏 — 病院と聞くと、まだまだ一般的には、汚い・辛い・暗いというキーワードが浮かびますよね。厳しい状況で、あまり行きたくないなと思うような。ぜひ、デザインの力で変わってもらいたいと思います。

浅香氏 — いろんな機器装置には、患者さんの状況を知るために重要な意味があります。生体情報を測定するバイタルモニターでは脈拍の波形が大きく表示されます。医師には重要な情報でも、患者さんの中には知りたくないという気持ちを持たれる方もいるでしょう。たとえば、通常は山や川など自然の映像を流しておいて、患者さんに見えないようにするとか、そういう配慮も簡単に反映できますよね。ひとつの医療機器に二面性を持たせるというのもデザインの課題ではないかと思いました。院内のより良い環境づくりを考える機会にもなりますね。

阿久津 — では、高瀬先生から在宅医療について詳しくお話いただきます。

高瀬氏 — 往診の時の道具は「聴診器」「手で巻くタイプの血圧計」「心臓と肺の酸素の具合を計るコンパクトな器具」です。これらすべてがパッケージ商品になっていれば、どこの家庭にあってもいいんじゃないかと思うんです。そういう発想でメディカルデザインの変革があれば、こういうものが欲しいって市民の側からもっと声が上がるんじゃないかと。まさに「医療の市民化」につながりますよね。

浅香氏 — 私は2年半前まで、家内の母親を自宅で介護していました。実家は非常に古い2階家でしたし、在宅医療はは現実的に難しい点が多い。現在のような高齢化社会の中で、家でケアをしていかないといけない、そのようなニーズにこたえて、空間も道具も変えていかなくてはいけない。まさにここに明確な市場があると感じましたし、新しいマーケットにつながるなと。しかし、ただ気持ちだけで終わるのではなく、支えられる空間をつくったり道具を考えたりすることが必要なんです。医療関係の中でデザインができること、果たさなきゃいけないことを考えなくては。「医療の市民化」という高瀬先生の切り口には、非常に共感するところがあります。

飯島氏 — 高瀬先生が患者さんに聴診器を当てているこの写真(写真協力:毎日新聞)では、普通に見ると聴診器で心音を聞いているだけの写真ですが、それだけでなくて、におい、ことばのトーンなど、あらゆることが統合されて垣間見えます。
医療の一番根本となる「手当て」、手を当てて全神経を集中して患者さんの状態をよみとることが大切ですよね。単純に道具として医療機器のデザインに関わるだけではなく、医療ではコミュニケーションデザインも考える必要があります。「人間を知る」「お互いを知る」「いのちを知る」、これが重要です。
ライフデザインの「ライフ」には3つの意味があります。ひとつは生命、そして人生のライフ、最後のライフは日常の暮らしです。この1枚の写真の中に、そういうことが読み取ることができる。病気になることって、今まで被害者的感情がわきがちでしたが、病気を経験することで人としての成熟につながるという要素が治療行為の中に入っている。デザインは、その経験だけでなく、さらには人間の成熟をサポートする大切な立場だと考えています。メディカルデザインの概念は多岐にわたると思いますね。

浅香氏 — 3年前まで、経済産業省が旗を振っていた「新日本様式」協議会に日本インダストリアルデザイナー協会として出席していたのですが、その中で日本の強みというのはいったい何なのか、ずいぶんいろいろ考えさせられました。今でも印象に残っている3つのキーワードは、「匠の心」「振る舞いの心」「もてなしの心」。日本のものづくりのキーワードとして、この3つは非常に魅力的ですし、医療デザインの内容にも当てはめることができると思います。

高瀬氏 — 医療においては、患者さんをうまくモニタリングして プロセスをきちんと詰めてデザインすることが大切ですね。人生そのものがデザインだとしたら、それを援助する側、つまり医療従事者側が、どこでどのタイミングで援助するかを常に考えなければいけないと思っています。

浅香氏 — 箱ができたり道具ができたりするだけでは解決できない。そういうものをつくりだす装置や機械、しくみも含めてデザインの役割を考える必要があると思います。これはデザイナーだけではできない。ここで「共働」という概念、そしてネットワークがはられることが非常に大事だと思います。今メディシンクさんがやられようとしている企業や組織の壁を超えたネットワーク、まさに「プラットホーム」づくりにはとても意味があると思うんです。

高瀬氏 — 「チームワーク」「ネットワーク」「フットワーク」が、僕らの業界だけでなくどんな業界にとっても大切なポイントです。まずは、動かないといけない。自分の中の壁から一歩ぐぐっと外へ出る。教科書にばかり頼らないで、外に出ていろんなことを体験してみる。皆さんが、すぐにでもそれをやっていただいたら、きっと変化が起きるでしょう。期待しています。

阿久津 — このアワードに応募されるみなさんにぜひ先頭に立っていただいて、わくわくするようなものを生みだしていただいたらなと思っています。どうぞこのトークライブも参考にしていていただき、具体的に手を頭を動かして、アワードへの応募を進めていただけると光栄です。
浅香さん、高瀬先生、飯島さん、大変貴重なお話をいただき、どうもありがとうございました。

第二部ワークショップのレポートはこちら

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